生まれた時から、私は幸福が約束された人間だった。

 高貴な身分。有り余る財産。美貌とそれを輝かせる宝石。
 取り巻きの男性の甘い言葉は、私を更に美しくする。
 夫という名の地位と名誉は私が素晴らしい貴婦人である保証になった。
 人は私の幸福を羨み褒めそやす。

 でも、ただそれだけだった。

 あなたは貴い、あなたはお金持ち、あなたは美しい
 あなたは素晴らしい、あなたは立派な旦那様を掴まえられる素敵な女性。

 私が幸福だと思っていたものは、全て他人から言われる「あなたは幸福」ということ。
 彼らは私が笑っていても、その笑顔が本心か仮面かも区別はつかない。
 ……私だって、人の笑顔の下に何が隠れているのかなんて分からないけれど。
 私は、私の幸福が外側から見ただけの幸福だということに長い間気付きもしなかった。
 私は、私の内側から湧き上がる幸福というものをとうとう見つけたのだ。

 あなたと出会ってから。

 抱き合って、寄り添って、眠って、目が覚めると隣にあなたがいること。
 ただそれだけで、私は温かい想いに涙が溢れる。
 ここへ来るまでに過ごした時間は、今まで生きていた中で最高の一時だった。
 あなたを見つめて私は微笑む。あなたとじゃれあって私は笑う。
 心の底から。
 誰からも評されることのない、あなたの存在は私だけの幸福。



 そして私は遠いシベリアの地にいる妹を思い出す。
 あの子が幸せそうに微笑んでいたのは、自分の幸福が何かを分かっていたからだ。
 きっと私も今、あの子と同じような笑顔を浮かべている。



 パーヴェル? ミハイル?
 名前なんてどうでも良い。
 あなたは、あなた。――私の幸福――。

 このまま国境を越えて二人だけで暮らす結末もあったでしょう。
 私が全てを捨ててあなたと共に生きる結末もあったでしょう。
 でもゆっくりと歪んでいく未来ならいらないわ。

 さあ、引き金を引いて。

 そんな顔しないで。
 私は満足しているの。

 これは、幸福なほうから数えて二番目の結末だから。





最近立て続けにパトリス・ルコント監督作品を観ました。

するとアントニーナ株が自分の中で急上昇。
二人の結末は外側から見ると悲劇でしょうけど、彼女の内側では
ハッピーエンドだったのではないでしょうか。
ルコント作品、こういうエンディングばっかり。いや、好きですけどね。



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