―― Tientos ――





滑らかな体温に頬を寄せて
唇で肩の輪郭を辿る
金糸に指を絡ませて
その一房から薔薇の香りを吸い込む
耳を打つのは次第に早くなる鼓動
もう自分の音なのかお前のものなのか分からない

見えない、なんて

それほど大事なことではない
今なら髪にも神経が通っている
お前の肌を掠めただけで
愛しさと熱が伝わり合う
体中の感覚が全て
お前へと向かっている
そしてお前の細胞の一つ一つが
微かな動きすらも捉えるために
俺のもとに剥き出しに晒されている
ぬくもり 吐息 震え
それらを分かち合う瞬間には
おそらく互いの心や魂も分け合っているのだろう 

ずっと手探りだった

想いを伝える術を知らず
願いを叶える術を知らず
狂おしい感情に支配され闇雲に振り回した腕で
傷つけ殺めてしまいそうになったこともあった
それから触れることすら自らに禁じても
募る想いを捨て去ることはできなかった
手探りのまま 暗闇の中
退くことも進むこともできず
恋しさだけが深まっていった
ついに差し伸べられた手に
縋り
絡ませて
抱き寄せて
永い停滞は終わりを告げたかに思えた
けれど
また別の真っ白な光の闇を
手探りで進む
傍らに寄りそうお前と共に
光の射す方へ昇っていく

見えない、なんて

それほど大事なことではない
指先がお前の全てを憶えていくから



この夜も この恋も
ただ手探りのまま

見えない 明日を求めるかのように






Tientos(ティエント)はフラメンコの曲形式のひとつです。
短調の曲で、重々しく粘るように踊るものです。
Tientosの意味は ――手探りで――



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