私の影


 アンドレ

 お前の声は心地良いな

 三部会のことや不穏な情勢のこと

 ロベスピエールの固い演説の言葉さえも

 柔らかい木漏れ日のように私の耳に降り注ぐ

 凭れかかった胸は大樹のようにあたたかくて

 このまま体の芯が溶けてしまいそうだ



 突然の雨に降られた旅人のように

 照りつける日差しに渇いた羊飼いのように

 私はお前の影に憩う

 あの夜に私は気付いてしまったのだ

 お前が私の影であるということに




 ジェローデルも私に影を用意してくれただろう

 暑さも寒さも嵐もない、堅牢な屋敷がつくる影を

 屋敷の齎す影は安全で、窓越しに見える風景は絵画のようで

 その中で私は静穏な日々を過ごしただろう



 しかしそこでは木々のざわめきを聞くこともなく

 頬を撫でる涼風を感じず

 陽光の移りゆきを見ることもない




 小さな窓枠に切り取られた風景よりも

 憂いの無い壁の中よりも

 例え過酷な日照りや嵐に晒されようとも

 全身を包む世界を私は欲しているのだ




 アンドレ

 私の影  私の木陰

 この幹の傍らにまどろんでいたい

今一時  そしてこれからも



「アンドレ……もう、どこへも嫁がないぞ。一生……」





7巻のうたた寝のシーンより着想しました。
アンドレがただ付き従う影ではなく、包みこむ木陰
のように見えた、のですが……いかがでしょうか。



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