雪の上に、ぽとりと真っ赤な椿。 僕はこれを見たことがある



「さぁ、ユリウス。そんなに窓にくっついていては寒いわよ」
ドイツとは違う吹雪。死んでしまうほど寒い氷の粒


「珍しいわね、雪の日に窓の傍へ寄るなんて」
大丈夫、吹雪の音が聞こえなければ
「少しずつ良くなっているのでしょうか」
悪夢には、吹雪の音がついているんだ
「ええ、イザーク、そうね。そうだといいんだけど」


「何を見ているのかしら?」

「あの、椿の花ではないですか?」

「そうだわ。ふふ、おかしな子。うちにいた頃には庭になんか目もくれなかったのに」
もっと吹雪け。もっと、もっと。庭の土が見えなくなるように



「時々思うの。ユリウスはこのままの方が良いのかもしれないと」

「そんな! どうしてです? 良いはずがない」
何も思い出さないでおこう。あなたの腕に抱かれている間は
「この子の心は時間が止まっているの」
あなた? あなたって誰?
「……音楽学校の頃、ですか」
僕はクラウスを探しているの
「そう。どんな辛い目にあったのかは分からないけれど、
きっと一番幸せな頃で止まってしまったのよ」
クラウス、君があの夜僕のもとへ来たように
「でも、そこから動かないことが幸せだとは思えません」
僕も君に助けを求めている
「確かにあの頃は、花を眺めて喜ぶなんて、女の子のようなことは出来なかった。
でも今はどう? 誰も咎めないわ。だって、ユリウスの周りには誰もいないもの」
助けて。僕は何から逃げている?
「僕らを、認識していない……」
助けて。罪が許される日は来るの?
「そうよ。私達にとっては辛いけれど、ユリウスには望ましいのかもしれなくってよ。
 秘密が暴かれずに、初恋の人だけを想っていられる。ずっとオルフェウスの窓の下から」
悲劇の終わりは何?
「しかし!」

「治って欲しいわ! 勿論治って欲しいわよ!
 ……でも、この子の時間が動き出したら、その後この子はどうなるのかしら?」
“あなた”がいなくなってから、ずっと。僕は“君”を探している



ぽとりと、真っ赤な椿は雪の上
川のほとりに散った沢山の椿の花。
真っ赤な真っ赤な……あれも、悪い夢?




天野月子の「カメリア」という歌のイメージで書いた結果
……わけわからんくなりました。
ええと、もう一人います。クリック&ドラッグで反転させてみて下さい。



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