おそらくこれは罰なのだ。
  俺の目が潰れてしまったのは。

アンドレはもう開かない瞼を指先で撫でる。
皮膚の下に眼球の感触はするが、その水晶はただそこに在るだけなのだ。
機能を果さない丸い塊。

  オスカルを見つめるのは、右目だけの特権になってしまったな。

そう考えてアンドレは苦笑した。
たった今“罰”だと思ったばかりではないか。

  この目は罰を受けたのだ。
  見つめてはならない女性を、追いかけ続けた罰。

左瞼を撫でる指がふと止まる。

  だからといって……もうオスカルを見つめないでいられるか?

唇の端が持ちあがる。
顔の筋肉が不自然な笑いの形を作らせた。

  無理だ。
  例え瞳が罰を受けたとしても、俺の耳はお前の声を探す。
  例え耳が罰を受けたとしても、俺の喉はお前の名を叫ぶ。
  例え喉が罰を受けたとしても、俺の鼻はお前の香りを知る。
  例え鼻が罰を受けたとしても、俺の足はお前の元へ向かう。
  例え足が罰を受けたとしても、俺の腕はお前の体に縋る。

嘲笑とも、溜息ともつかぬ空気が口から零れた。
その音がどこか狂気じみているのを、アンドレは他人の声のように聞いた。

  例え俺の四肢全てが罰を受け、あらゆる感覚さえ戒められたとしても。
  俺の髪はお前の指に絡みつき。
  俺の呼吸はお前だけを空気とし。
  俺の鼓動はお前のためだけに響く。

  例えこの心臓までが罰せられたとしても

  俺の血はお前の立つ場所まで流れていくだろう。  

潮が引くように、アンドレの頬から歪んだ笑顔が消える。
瞼に置いた指が力なく崩れ落ちていった。

  やはりこれは罰なのだ。
  こんなにも狂おしい想いを抱えたしまった俺への罰。



  だけど、きっと……この想いは罪ではない。

Tengo que castiga a los ojilitos de mi cara
Tengo que castiga porque siemple se enamorada ay
que de quien mal pa…ago me da
siemple se enamorada ay
que de quien mal pa ago meda
  




フラメンコネタ第2弾〜、ですが甘いどころか怖い話に。
アレグリアスという日本語で「喜び」という意味の曲の歌詞から
ざわざわと妄想しました。以下はその詞の日本語訳です。

僕は罰しなくちゃならない
僕は自分の目を罰しなくちゃならない
だっていつも恋をしてしまうんだ
いつも碌なことにはならない女(ひと)に恋をしてしまうんだ



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