セビジャーナス




 セビジャーナスという言葉は方言です。綴りは「Sevillanas」。「Sevilla=セビージャ」を標準スペイン語で発音すると「セビリア」になります。セビリアというのはスペイン南部アンダルシア地方にある土地の名です。セビリアの理髪師や女たちが裸足で踊る乾いた風の広場とかで有名ですね。TMNの“Spanish Blue”知らない人には全然わかりませんね、はい。

 コーヒー・ルンバの次に習ったのがこの踊りでした。とうとう未知の世界、フラメンコワールドへ突入です! って言っても盆踊りなんスけどね。

 セビジャーナスはセビリア地方の春祭りで踊られる曲で、フラメンコの中で最もポピュラーなものです。誰でも踊れるセビジャーナス、皆で楽しくセビジャーナス、くるくると輪になってセビジャーナス。ほら、日本の盆踊りによく似てるでしょう?
 フラメンコは日本舞踊と同じポジションにあるそうです。即ち、伝統芸能であるけれども踊れる人は少ない、ということ。でもこのセビジャーナスはかなり多くの人が(フラメンコを習ったことがないスペイン人でも)踊れるそうです。しかもなんとなく見様見真似で踊れる。ほら、盆踊り。

 そっかー、盆踊りなんだー。じゃあ僕でも大丈夫だね!
 ……ハイ、もう予想つきますね? 結構大変でした。
 この一言で終わるのもなんですから、どこら辺が大変かを述べましょう。

 踊りの構成は単純です。全部で4番まであって(歌によっては3番までしかないのもある)、歌1つ分の構成は全て一緒です。
 前奏(スタート時に1回転)→パソ・デ・セビ→振りパート1→パサーダパソ・デ・セビ→振りパート2→パサーダパソ・デ・セビ→振りパート3→最後の決めポーズ
 歌1つ分が3つのパートに分けられます。パートの最初には必ずパソ・デ・セビ、最後にパサーダという同じ振り付けが出てきます。真ん中の振り付けがそれぞれ違うだけなんですね、ほら簡単。だからその違う振り付けを憶えるのが大変なんだよ!
 まだ手と足を同じに動かすのに慣れない初心者の頭はパンクしそうでした。
 パソ・デ・セビ、パサーダも憶えました、真ん中の違う振りも憶えました、じゃあ大丈夫ね、ほら簡単。んな訳ねぇだろ!
 セビジャーナスは皆でくるくる回って楽しい踊りです。花が咲いたように広がる乙女達のファルダが春の華やかさを一層増します。……つまりですね、回転が多いのです。
 ブエルタというほどのしっかりした回転でなくても、元々パレハで踊るのがスタンダードな踊り、一緒に踊る相手とめまぐるしく場所を入れ替えながら踊るわけです。目ぇ回って吐きそうだよ!
 生来僕は三半規管が弱く、前転を1回しただけで立てなくなるほど目が回るのです。そんな人間が手拍子30回打つ間に1歩ごとに半回転しつつ場所の入れ替えを4回やった挙句最後の決めポーズ時に1回転して御覧なさい! 合計1080度回ってるんですよ! 踊りながらゲロ吐いたっておかしくないよ!

 まぁ、一応胃の内容物を撒き散らすことなくセビジャーナスは踊れるようになりましたよ。人間は慣れの動物です、素晴らしい。
 セビジャーナスが盆踊りとは言うものの、実はこれが一番難しい踊りではないかと思います。単純なものほど上手い下手の差が出ますもの。確かに大変だったし、目ぇ回るし、シンプルで難しい。それでも、同期の部員にはあまり好かれていなかったこの踊りが僕は好きなのです。なぜなら無条件に楽しいから。するっと感情移入できる踊りだから。“El Adios”をバックに踊っているときなんか、最後の決めポーズは「さらば! 友よ!」という気分満点。男性と組みで踊るとき、彼の腰に手を回して目を見つめれば擬似恋愛。下手っぴでも楽しく踊れる、だからこそ愛される踊りなのではないでしょうか。

Ole! Viva Sevilla!

とかなんとか言いつつも、今でも時々「吐きそう……」と思って踊っていたりするってのは内緒。 




用語解説

パソ・デ・セビ→英語に直すとstep of Sevi。セビジャーナス特有のステップの呼び名。

パサーダ→?

ファルダ→スカートのこと

ブエルタ→回転。

パレハ→二人で組になること。

El Adios→セビジャーナスの歌の一つ。友が去り俺のギターも泣いてるぜ、アーイアイ……という歌詞。


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