地上最大の作戦


   諸君 私は農作業が好きだ
 諸君 私は農作業が好きだ
 諸君 私は農作業が大好きだ

 耕起が好きだ 代かきが好きだ 田植えが好きだ 播種が好きだ 元肥え播きが好きだ 追肥が好きだ 草取りが好きだ 農薬散布が好きだ 収穫が好きだ
 田んぼで 畑で 果樹園で 草原で 寒冷地で 砂漠で 畔で ハウスで プランターで 急傾斜地で
 この地上で行われる ありとあらゆる作付け行為が大好きだ

 各人手に苗を持ち 一斉に腰をかがめて 田植え歌と共に葉齢3〜4の苗を植えつけるのが好きだ
 空中高く放り上げられた窒素肥料が 水面にばらばらと落ちる時など 心がおどる
 技官さんの操る ディスクプラウが土煙を上げて圃場を耕すのが好きだ
 登熟を終えて すっかり黄金色に枯れあがり たわわに実った稲を ステンレス鎌でなぎ倒した時など 胸がすくような気持ちだった
 無限伸育性をそなえた ダッタンソバの枝が 隣の畝まで蹂躙するのが好きだ
 脱穀機に入れた穂先を 既に籾は充分に取れているのに 何度も何度も出し入れしている様など 感動すら覚える
 ボタンに絡みつく防鳥ネットを 組み立てた鉄のパイプの上に 吊るし上げていく様などはもうたまらない
 ようやく芽を出したトウモロコシが 私の実験の栽植密度のために 金切り声を上げながら ぶちぶちと間引きされていくのも最高だ
 哀れな飼料用作物が 角質デンプンを肥大させ 健気にも生長してきたのを 自脱型コンバインの回転鎌が 実験区画ごと木端微塵に粉砕した時など 絶頂すら覚える
 系統選抜中の品種が 花粉のコンタミによって滅茶苦茶にされるのが好きだ
 必死に守るはずだった作物体が台風に蹂躙され 手の施し様もないほど倒伏している様は とてもとても悲しいものだ
 太陽の熱量に押し潰されて だらだらと汗をかくのが好きだ
 高温で予測よりも早く発生した 害虫が地べたを這い回るのは 屈辱の極みだ

 諸君 私は農作業を 地獄の様な農作業を望んでいる
 諸君 私に付き従う労働力諸君 君達は一体 何を望んでいる?
 更なる高収量を望むか? 情け容赦のない 糞の様な堆肥を望むか?
 丹精の限りを尽くし 八十八回の手間暇をかける 嵐の様な稲作を望むか?

 農業!! 農業!! 農業!!

 よろしい ならば農作業だ
 我々は満身の力をこめて 今まさに振り下ろさんとする鍬だ
 だが この20cm程度の耕土層の上で 幾世紀もの間 農業を続けて来た人類に ただの農作業ではもはや足りない!!

 大農業を!! 低投入持続型の大規模農業を!!

 我らはわずかに一研究室 二十人に満たぬ労働力に過ぎない
 だが諸君は 一騎当千の古強者だと 私は信仰している
 ならば我らは諸君と私で 総力100万と1人の農作業集団となる
 我々を研究棟の片隅へと追いやり ポット実験ばかりしている連中を叩き起こそう
 髪の毛をつかんで 引きずり下ろし 眼を開けさせ 思い出させよう
 連中に太陽の光を 思い出させてやる
 連中に我々の 長靴の音を思い出させてやる
 天と地とのはざまには 実験室の農学では思いもよらぬ事がある事を思い出させてやる
 一千人のほっかむりの農作業団で 世界を農地で埋め尽くしてやる

 全苗床播種開始 旗艦ヤンマー田植え機 GP6PWGU 始動
 発芽!! 全稚苗 全種籾 目標葉齢に到達
 「最後の大隊 大実験担当者より 全作業部隊へ」
 目標 伊那谷アクセス通り 駒美信大水田圃場!!
 第二次アジア・イネゲノム計画 田植えを開始せよ


 征くぞ 諸君



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