I love you, very much.


  久しぶりにニュースを見て泣いた。

 ピッツバーグに墜ちた飛行機に乗っていた男性の、母親に対するインタヴューが流れた。彼女の目は真っ赤で、それでも尚涙が止まらない様子だった。

 あの子から電話があったんです。突然「大好きだよ」って言うんです。
「大好きだよ。今空を飛んでる、飛行機の中からだ」
 それからもう一度、大好きだよって言ったんです。
「大好きだよ。……驚かないで聞いてね。今爆弾を持った三人の男にハイジャックされている」

 このインタヴューを見て僕は大泣きした。学校に行く時間だったが、構わずに泣いた。
 インタヴューに答える彼女は「I love you very much」と息子の言葉を繰り返すたびに、微笑むのだ。突然の出来事に憔悴しているようなのに、息子の最期の言葉を口にするたびに、とても幸福そうなのだ。
 彼女がどれほど息子を愛していたかが分かる。その姿があまりにも哀しかった。そして僕はこうも思った。

 その状況に置かれたら、僕も彼と同じ事をして、同じ事を言う。

 死ぬ前に、誰かに電話できるとしたら誰にするだろう? 僕に繋がる全ての人にかけたい。でもそれが無理なら、家族にかけたい。勿論親戚や友人全員にもかけたいけれど、おそらく真っ先に家族にかける。そして彼と同じ言葉を言うだろう。
「大好き」と。

「大好きです。あなたの孫で、あなたの娘で、あなたの妹でよかった。ありがとう。本当に大好き」

 そう伝えてから死にたい。今回の事件で、何人の人がそう思っただろう。自分の大好きな人に「I love you very much」と伝えたかった人達が何人いただろう。テロリスト達は、その間も与えずに勝手に突っ込んでいった。

 テロリストにも「大好き」と言いたい相手がいただろう。彼らはちゃんと別れを言って来れたかもしれない。でもビルや飛行機の中にいた皆は言えなかったんだ。あんたが突っ込んできたせいで。あんたら以外、誰も望んでいない世界を作るために、その人達が言いたかった「大好き」を永遠に奪ったんだ。

 これで戦争になってしまったら、また沢山の人が一番言いたい言葉を告げられずに死んでしまう。報復攻撃でも、テロと関係のないアフガニスタンの人が「大好き」を言えずに死んでしまう。テロリストの飛行機もアメリカの爆弾も同じだ。

「I love you」の「you」は人それぞれだろう。人間であったり、物であったり、思想であったり、神であったり。
 でも自分の「I love you」のために、他人の「I love you」を奪っていい筈がない。絶対に。



+BACK+ *HOME*