文庫へ寄する愛



   今回の「呟き」は一風かえて、支配人ふなのはしとの会話を収録しました。

ふなのはし(以下:ふ)「“暗い宿”読了ー。最近文庫ばかり読んでいたから、ハードカバーは少し疲れますね」
雪(以下:雪)「だったら本棚にたまってる文庫片付けてったらぁ?積ん読してるくせに新刊に目がないんやから」
ふ「……夏になると各出版社が夏の100冊とか言ってキャンペーンを一斉にするでしょう。アレは読書感想文狙いだとわかっていても引っかかってしまいますね。新潮文庫なんかは毎年楽しみですよ」
雪「あんたもパンダに騙された口か」
ふ「騙されたってひどいなぁ。純粋に新潮は装丁が綺麗で好ましいから……」
雪「summerから貰ったパンダキーホルダー、嬉しそうに鞄につけてるくせに」
ふ「うっ……。いや、パンダはさておき、新潮は紐しおりもついていて、こうなんか上品な感じがするから好みなんですよ」
雪「へへん、甘いねぇ支配人。僕に言わせりゃ新潮は敬遠No.1だよ」
ふ「(やや不機嫌そうに)なんでまた?」
雪「古本屋バイトをしてるとね、出版社によって本の作りがかなり違うことがわかるのさ。新潮文庫のカバーは濡れ拭きが出来ないの。インクか紙が特殊で濡れ布巾で拭くと粘るしおまけに色落ちするし大変なのよ」
ふ「へぇ、それは知らなかった」
雪「おまけにあの!アレのおかげで研磨機に掛けられないから、手作業になるんだよ!」
ふ「研磨機?」
雪「中古品だから、断ちの部分が汚れていたり日焼けしてたりするでしょ。それを機械で僅かに削って、白く綺麗に揃えるの」
ふ「だから古本屋さんで買った本ってちょっとだけカバーとサイズがあってないんですねぇ。あ、新潮の栞が切れているやつもあった」
雪「研磨機で天の部分(本の上部)も削っちゃったんだね。きっとその店手抜きだわ。バイト先じゃ新潮の天はぜーんぶ手で紙やすり使って磨いてるんだぞ!それでなくても新潮は天が不揃いだから綺麗に磨けないのに……(ブツブツ)」

ふ「出版社で文庫本が違うのは、幻冬社文庫なんかがわかりやすいですね。ちょっとサイズが小さいから、本棚に並べた時美しくないんですよね。……角川は、特にどうというわけではないがなんとなく好きではないですねぇ。文庫化は早いし、表紙を映画にタイアップさせるし……」
雪「角川ねぇ……あれも粘るんだよねー。おまけに天の部分が不揃いだから埃溜まりやすいし。マイ文庫ランキングワースト3に入るね」
ふ「マイ文庫ランキング……東京創元は?」
雪「あれも天が不揃い。拭いても粘らない所は良いけどね。因みに貴方が愛読するハヤカワも天が不揃いなのでランキング下位」
ふ「なんか凄く悔しいんですけど……講談社文庫は?アレは結構良い……」
雪「講談社!講談社は良いよ!あそこの裁断は異常に揃っててどこの潔癖症やろかと思うよ。拭いても粘らないし」
ふ「じゃあ講談社はお気に入りなんですね」
雪「うん、かなりの上位だね。ちょっと表紙が柔らかいのが難点かな。研磨機に挟む時に面倒だから」

ふ「ランキング第1位は?」
雪「文春文庫!!僅差で第2位が徳間かな。文春はね〜、表紙も適度に固いし、断ちは揃ってるし、濡れ拭きガンガンOKだしい(はあと)。講談社とかって、古いやつは濡れぶき出来ないんだけど、文春は昭和の発行でも大丈夫なのよ。徳間との僅かな差は、背表紙のフォントが好み、って程度かな。徳間も丈夫で良いよぉ」
ふ「光文社とか扶桑社は?(にやにや)あと春陽文庫
雪「マイナー所を突いてボロ出させる気だね。あーやだやだヨゴレは。光文社も扶桑社も、裁断綺麗で濡れ拭きOK。春陽は一応濡れ拭き出来るけど天が不揃い」
ふ「私は角ゴシックの字体だから、光文社の背表紙はあまり好きではないんですけどね。新潮とか中公なんて、明朝体で装丁も美しい。格調高い作りで好いですよ」
雪「そうやって、文学世界に浸っている自分をナルシスティックに楽しんでるんやね」
ふ「……(聞いてない振り)古い岩波なんかは格調の高さはピカ1ですね。あの薄紙がなんとも素晴らしい」
雪「はっ(鼻で笑う)、岩波!あの薄紙表紙は破れやすくて研磨機に挟みにくいわ、天は不揃いだわ、格調だ・け・は高いですな!!」
ふ「…………君からお借りした岩波の“曠野”。返さなくていいという事ですね」
雪「うぎゃ、やめてぇあれはパパンのなのぉー、怒られるぅー!」

――微妙にオチのないまま終わり。「コミックスに寄する愛」も読みたい?



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