♂×♂の山積み



   しっかし、ストレートなタイトルやね。今回の呟き。21世紀初の「踊り子の呟き」がこのタイトル……。先行き不安な21世紀の俺。

   最近研究室の先輩からの紹介で古本屋さんのアルバイトを始めました。業務内容はレジ打ち・本の研磨・本を拭く、この3つが主なお仕事です。
 お客様が売りにこられた本を査定して、買い取ります。買い取った本は、研磨機でがしゅがしゅと断ち(背表紙の反対側)、天(頭の部分)、地(底の部分)を削ります。その後薬剤をぷしぷしカバーに吹きかけて、雑巾できくきく汚れを落とします。きれいになった本達は値札を付けられ店頭に並びます。

「おはようございまーす」
「ああ、雪さん。今日のノルマはねぇ、ここにあるマンガの山全部拭いといて欲しいんだ。研磨は済んでるから」
「はーい」

 指差されたのは、B6コミックス平積みの山が3つ。一山1m近い高さがあります。50冊以上あるとみて間違いないでしょう。
「うし。頑張ろう」
雑巾と薬剤を武器に、コミックスの山をやっつけ始めました。

ハイ、もうお気付きですね。 

山の全部がホモマンガなんです。

(以下、斜体文字は脳内に渦巻く独り言)
ぷしぷし。きくきく。きゅっきゅ。
……BOY'S LOVEの発行元って、世の中に沢山あるんやなぁ。
  ぷしぷし。きくきく。きゅっきゅ。
にしてもきっつい表紙やなぁ。いいんかいな、これ普通の所においといて。成人男性向けは店舗の奥を区切ってあんのに。成人女性向も区切るべきやろ。
ぷしぷし。きくきく。きゅっきゅ。
うわ。「淫射裸」で“いんしゃらー”って読ませんのかこれ。夜露四苦並や。
ぷしぷし。きくきく。きゅっきゅ。
……でもなんで、こればっかりの山なんやろ。仕分け、したんかなぁ。
  ぷしぷし。きくきく。きゅっきゅ。
仕分けしたっつーことは、この一見普通の少女マンガに見える「主婦の友社」発行のやつが、実はホモマンガだって知ってる店員さんがいるってことになるよなぁ。…………誰や。
  ぷしぷし。きくきく。きゅっきゅ。
いやいや、確か昨日沢山買い取りお願いしてきたお客さんいたよなぁ。
………………あの人か?

ぷしぷし。きくきく。きゅっきゅ。
これだけの山を持ってくる人の動機って、なんやろなぁ。
ぷしぷし。きくきく。きゅっきゅ。
やっぱり………卒業。かなぁ。
  ぷしぷし。きくきく。きゅっきゅ。
一部を処分……てのもありだな。ええっぇ!こんなに!?
ぷしぷし。きくきく。ぷしぷし。きくきく。ぷしぷし。きくきく。
ぷしぷし。きくきく。ぷしぷし。きくきく。ぷしぷし。きくきく。
ああ、ようやく終わりか。次が最後の1冊……
うぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!

最後の1冊。僕の目の前に現れた、ミッドナイトブルーの本は

臨床犯罪学者・火村英生のフィールドノート「人喰いの滝」

原作・有栖川有栖、漫画・麻々原絵里依。原作好きの僕が掲載誌まで毎月買って読んでいる漫画ではないですか。

……いや、確かに男2人の表紙だけどさ。つーか原作でもアヤシイと評判の2人だけどさ。原作を忠実に漫画化したら更に仲良しさんな2人だけどさ。一応さ、
違うんだよ。違うんだよ!違うんだ!!
ホモマンガじゃないんだよ!!!

割れるような大音響の叫びを脳味噌の中だけで必死に処理し、僕は薬剤のスプレーを握りなおし……

………………………きくきく。きゅっきゅ。きゅっきゅっきゅ。

そこには、火村先生の顔に薬剤を拭きかけられなかった弱い自分が、他の本よりちょっとだけ丁寧に拭いている姿がありました。

   
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