殺意というもの


 火曜サスペンス劇場を見た。『警視庁鑑識班9』。ドラマの出来がとっても
良かったが、あえてネタバレをするので、再放送で絶対見てやる!と思ってい
る方はここから先は読まないで下さい。

 ストーリーは“東電OL事件”を強く意識……というよりもまんま下敷きに
したかの如くだった。地下道で女性の絞殺死体が見つかる。彼女は売春をして
おり、また覚醒剤の常用者だった。ところが彼女の身元が判明して、近隣の人
に聞き込みをしてみると、真面目で、派手な服も着ない、きちんとしたおとな
しい人という評判だった。
 捜査は難航するが、科捜研と刑事達の懸命の努力により犯人をつきとめる。
意外や意外、犯人は彼女の婚約者だった。彼女と清い交際を続けていた彼だっ
たが、週末の彼女の様子がおかしいので後をつけた。彼女は真っ赤な皮のコー
トに着替え、なにやら取引をしていた(実はヤクの売買)。声をかけてみると
「あらぁ!奇遇ねー。ねぇ、飲みにいこぉよぉー」と、いつもの彼女からは考
えられないようなくだけた感じだった(実はラリってる)。彼女の真面目さが
好きだった真面目な彼は、大きなショックを受ける。

その時、殺意が芽生えたんです
「早過ぎるっちゅうねん!」

僕はテレビに向かってツッコミをいれた。
もしかしたら彼女はジキルとハイドだったかもしれない。ちょっと派手な服が
着たい気分だったのかもしれない。本当に彼と飲みに行きたかったのかもしれ
ない。いつもの彼女と違うからといって、何も殺すことはないだろう!

 しかし考えてみるとそうなのかもしれない。幸福なことに僕はまだ殺したい
相手に会ったことはない。自殺もしないで今まで生きている。だからといって
この先も「人も自分も殺さない」と断言は出来ない。もののはずみ。

殺意というものはそういうものなのかもしれない。

殺人を実行に移してしまう瞬間というのは、きっとなにかに背中を押された瞬
間なのだろう。その背景にどのような情状があったとしても、“向こう側”に
飛ぶのは、もののはずみ。だから彼は彼女を殺してしまったのだ。こうして考
えると、殺した方も殺された方もひどい災難だ。
(ただし、殺人者は罰されるべきだとも僕は思っている。はずみだとしてもね)

 推理小説について友人が言った言葉を思い出した。

殺人の動機は第三者が追及すべきものじゃない

けだし、名言。


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