『花空庭園』


著者:荒俣 宏 発行:平凡社

架空花の咲きにおう園で、めずらかなる花の絵をめでるおり


 まだまだ寒い冬が続きますが、架空の庭園で心の春を楽しみましょう。ボタニカルアート本、第2弾です。
 第2弾ではありますが、『フローラ逍遥』とは深い繋がりのある本です。澁澤龍彦が『フローラ逍遥』を連載する折に(連載時は『弄筆百花苑』)この本の筆者である荒俣宏に1冊の花の本を借りに来たことがきっかけとなり、筆者は一念発起して植物図譜を集め始めました。いつかまた、澁澤氏が織り成す美本の助けとするために。しかしその夢は叶えられることなく、澁澤龍彦は冥府の人となってしまったのです。かくして荒俣氏は『花空庭園』を作り上げたのでした。

 ジャンルはエッセイでもあり、博物誌でもあります。厳密に言うと“博物誌の博物誌”です。多くの植物を取り上げて、その植物に関する体験や想いを語るに留まらず、古今東西のボタニカルアートからその植物を引っ張り出し、麗しき花々の姿を露わにしています。様々な博物誌の素晴らしい名画を一堂に介させた博物誌。ゆえに“博物誌の博物誌”なのです。植物画の歴史、文学に登場する植物達を実に楽しく学ぶことが出来ます。

 勿論植物画が豊富に使われています。ページをめくるたびに現れる精密で、活き活きとした、感動的に美しいボタニカルアート!ルドゥテの手によるバラなどは、絵から甘やかな香りが漂ってくるかの如くです。
 更に植物画だけではありません。章の冒頭にはハイネの詩やゴッホの手紙、夏目漱石の「明暗」等々の一部が巻頭詩(章頭文?)として配置されています。当然その章で取り上げられている植物が描かれている文学作品です。世界各地の文学作品にエスコートされ、色とりどりの植物が形作る空間にじっくりと浸ることができます。また植物画だけでなく、レトロな雰囲気の挿絵が独特の味となってその空間を飾っています。植物図譜の歴史に関するやや専門的な話も出てくるのですが、難しさを感じません。身近な逸話や柔らかな文章、そして巻頭詩や挿絵が、内容そのものをたおやかに見せているのでしょう。

 至福の美本とはまさにこのこと。植物図譜の勉強まで出来てしまう、絵と文字の花園でぜひ遊んでみてください。

私は蜜を吸ってくらす蝶や鳥にかわって、花園ぐらしのよろこびを語りたい。

 



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