『喜びは永遠に残る』


著者:ジャン・ジオノ 発行:河出書房新社

それは、途方もなく美しい夜だった。

 本が持つ影響力には素晴らしいものがあります。
 この本は、今後どれほどの辛い事が私の身に降りかかろうとも、必ず心の支えになってくれる本です。

『木を植えた男』で有名なジャン・ジオノが描いた“喜び”の物語です。
 途方もなく美しい夜、農夫ジュルダンは不思議な胸騒ぎを感じて畑を耕し始めます。そこに一人の旅の男ボビがあらわれました。彼こそが、無味乾燥な日々を変えてくれる魔法使いだったのです。ジュルダンだけではなく、その妻マルト、そして隣人たち、村そのものが鮮やかに色付いていきます。

「ジュルダン、あなたは花を栽培するつもり?」
「その通りだよ、エレーヌさん」
「いい値で売れるの?」
「売るためではないんだ。俺のためなんだ」


 耕地を隅々まで耕し、住人同士の交流もなく、ただ生活しているだけだった村人達は、ボビの行う様々な行動で次第に変わっていきます。何の役にも立たない花を植えること。誰のものでもない鹿が村の中を跳ね回ること。麦粒を小鳥たちのためにばら撒くこと。頑なな村人達の心が解けていき、世界の美しさに気が付いていく過程がふんだんな自然描写と共に表現されています。物語の進行に合わせ、まるで自分がグレモーヌ高原の住人になったかのように喜び、悩み、世界の美しさを認識していくのです。
 ボビは村を変えました。しかしボビ自身にも変化は訪れるのです。彼を愛すようになった女達の悲劇によって……。

 この物語はハッピーエンドではありません。しかし、村に満ちた“喜び”が読者である私に与えてくれたものは、間違いなく“幸福”そのものでした。
 登場人物達の些細な台詞にも、人間の本質に迫る深い意味が篭っています。たった一文でも、思い出すだけで涙が滲んでくる文章も有ります。もとより、私がストーリーに影響を受けやすい性質だからかもしれませんが、一時期恐ろしく落ちこんでいた時に『喜びは永遠に残る』の中のある台詞を知り、苦しさから立ち直れたほど力の有る物語なのです。
 人生は美しい。そこに喜びがあればより一層。
 言葉にしてしまえばたったそれだけかもしれませんが、日常に忙殺されて見失ってしまいがちな“喜び”の大切さを伝えてくれる作品です。

 ここを見ているであろう家族へ(これはもう名指しですな)。
 私が死んだらこの本と一緒に燃やして下さい。墓まで持っていきたいので。


「たったひとつの喜び、それがあれば苦しくても生きていけるんだ」




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