『INOCCENT』 小説:小池真理子 写真:ハナブサ・リュウ 発行:新潮社 |
図書館で表紙を見たときにすでに手に取っていました。セピアのトーンがかった石膏像の写真でした。天使のような青年像が美しい女性に口付けをする直前を形にしたもので、心臓を鷲掴みにされた気がする、目が離せなくなる写真でした。
ジャンルはおそらく恋愛官能小説。
性描写がふんだんにありますが、残念ながら“いやらしく”ありません。小池真理子がそれを狙ってたのだとすれば、いやらしくするには二人の関係が上質過ぎるのです。どうしようもなく相手を求める、その手段としてのSEXという感じで。(これが狙いならば、小池真理子は素晴らしい)
わたしが死んだら、生皮を剥いでちょうだい。
という部分で背中に鳥肌が立ちました。美しい官能表現として、1999年のヒットでした。
また、この本の半分は写真で作られています。この写真が強いこと強いこと。グロテスクで、清らかで、写真を見て胸を衝かれます。生身の人間の写真もありますが、彫像を撮ったものがホントに、もう。自分の中の渚の顔や玲奈の顔、湖畔の邸が石の向こうに見えてくるんです。表紙の写真にしても、青年像に頭を抱かれている彫刻は、後姿しか見えていないのに勝手に「女性=玲奈」だと思ってしまえるのです。小説と共に物語性のある写真を楽しめます。
たとえ良識の糸を踏み外そうとも、濃厚な時を、世界から透き通るような無垢な男と過ごした彼女は、まぎれもなくINOCCENTである。 |