「何者であるかはともかく……チャーリーは五万年以上前に死んでいるのです」
感動の名作です。
何故今までこの本を読んでいなかったのか、と自分で自分を責めてしまうくらいです。しかし、この本との出逢いが遅すぎることなく、こうしてきちんと読み通せた事を嬉しく思います。
ジャンルはSFミステリ(アシモフ先生、便利な言葉を有難う)。発行も創元“推理”文庫からとなっております。ハードなSFの文章で綴られた、カタルシスを感じる極上ミステリです。
時代は未来の地球。宇宙船が太陽系を航行する宇宙時代が到来しています。比類なき天才科学者ヴィクター・ハント博士は、ある日突然国連宇宙軍(UNSA)に招聘されました。世界を揺るがす“一体の死体”を研究するチームの責任者になって欲しい、と。
月面調査隊が発見したその死体は、チャーリーと名付けられていました。チャーリーは、ほとんど現代人と同じ生物であるにも関わらず、地球のいかなる人間でもない。彼は、なんと五万年以上前に月面で死んだ人物だったのです。
宇宙の全くかけはなれたところで別々に進化の過程を辿った2種類の生物が最終的に同じ形を取ることはありえない。(中略)
それにしても、チャーリーが地球人であることは考えられない。かと言って他の惑星から来たということはまずありえない。したがってチャーリーは存在し得ぬはずである。が、現実に彼は存在した。
チャーリーは何者なのか?彼はどこから来て、何故月面で死んだのか?こうして、世界の科学者達が集まって“月面人”チャーリーの研究が始まりました。
この研究の過程がすごい!一つの謎があらゆる疑問を解決し、そこから更に新たなる謎が生まれる……。研究者達の白熱した議論や真相解明への情熱に惹き込まれ、まるで自分も未来世界でチャーリーの行方を追っているような気がしてきます。目まぐるしく展開するチャーリーの素性、そして新たに木星の衛星で発見された謎の宇宙船。チャーリーと宇宙船は1つの線で繋がっているのか?否か?
『星を継ぐもの』は3部作のシリーズとして有名で、第2巻『ガニメデの優しい巨人』、第3巻『巨人たちの星』と続きます。一作の中で一つの驚くべき真実が明らかとなり、そこから次の何かを予感させる作りになっています。もう、この3部作一つ一つを「本読み」として紹介したいくらいです!
この作品の感動は、壮大な宇宙の物語にもあり、謎の解明というカタルシスにもあります。しかしなにより、人類を衝き動かしてならない“人間の好奇心”に深く感銘を受けます。
脆弱な人類が、知力の限りを尽くして世界の仕組みを解明しようとする姿。人間の未知の物に対する攻撃性は、進化と科学技術発展の速度を速めている!チャーリーを研究する科学者達に胸を締め付けられ、困難に立ち向かう勇気を与えられました。
『星を継ぐもの』3部作は、SFミステリの形をとった人間賛歌なのです!
「宇宙のいかなる力も、われわれを止めることはできないのだ」
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