『ハサミ男』


著者:殊能将之 発行:講談社


そして、銀色に鈍く輝くハサミ。


 すごい本を読んでしまった。
 読了後の感想はただこの一言でした。えふ様や田嶋屋様から「面白い」と聞いていたのですが、流石読書家のお二人が薦めるだけあって、「面白い!」本でした。

 ジャンルはミステリ。探偵はいません。いえ、いることはいますが、探偵は犯人なのです。ああ、ネタばらしだとは思わないで下さい。ご安心を。
 世間を騒がす連続美少女殺害事件。死体の喉に深々とハサミを突き立てるという残虐な犯行を重ねる殺人者は、何時しかマスコミによって『ハサミ男』と呼ばれるようになりました。そして『ハサミ男』は再び凶事を行おうと、一人の少女を付け狙い……彼女の死体を発見するのです。樽宮由紀子の喉には、銀色に鈍く輝くハサミが深く、深く突き刺さっていました。なんと、ハサミ男はハサミ男の模倣犯の第1発見者になってしまったのです!
 ということで、真犯人が模倣犯を探し始めるお話、即ち“探偵は犯人”なのです。章ごとに『ハサミ男』と『警察』、交互に視点が変わるため、両方の捜査がジリジリと進んでいく高揚感があります。

「なぜハサミ男は拾ったハサミを持ち帰らなかったのか? 公園にいるところを人に見られたから、持ち帰れなかったんだ。そこで彼はハサミを放り捨てた。そして、そのまま公園に留まった」
 そこで言葉を切って、堀之内は微笑を浮かべた。
「遺体発見者としてね」

 どうやら、わたしは警察からある程度の疑念を抱かれているらしい。こんなものが部屋にあってはまずい。

 果して警察の追及を逃れて、みごと真犯人に辿りつけるのか? ――実際の真犯人は本人なんですが――頑張れ、負けるな、ハサミ男!
 シリアル・キラーの内面を、理知的な別人格を配することで魅力高く書き上げています。自殺志願の無差別殺人犯に、つい感情移入してしまったり。

 スリリング、ミステリアス、そしてサプライズ。ミステリの基本をきっちり押さえて、尚且つ新鮮な発見を得られる一冊です。必ずページを戻って読み直したくなること間違いなし!



 わたしは真新しいハサミを手に入れた。

 




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