『最後のディナー』

著者:島田 荘司  発行:原書房

「石岡さん、握手をしてくれませんか、
今夜でお別れだけど、あなた方のことは忘れませんよ」

深緑の背表紙に金箔押しで『最後のディナー 島田荘司』の文字が。ふらふらと手が伸びその丁寧な装丁に指先が震えました。本体価格1500円。……そっと本棚に戻す。あぁ、どうしよう、欲しい欲しい、買いたい買いたい、いや、ここは我慢だ!
本屋を出るとき、私の手には別のハードカバーの本が2冊ありました。何のための我慢だったのでしょうか。脆すぎる自制心かはたまた本屋の魔力か。
そして数週間後、えふさん所有の深緑を借りて読むことが出来ました。多謝。

ジャンルはミステリ、ですが私の中では純文学箱に入っています。一つ一つの話が、まさに帯のうたい文句どおり珠玉です。時という癒し、絶望の淵からの生還、相手を命を賭けて思うひたむきさ。3つの短編はそれぞれに透き通るような“想い”の美しさが表現されていて、ひたすら涙腺が刺激されます。
これはシリーズキャラクター「御手洗さんと石岡君」ものです。このシリーズは2年前に「占星術殺人事件」「異邦の騎士」「御手洗潔の挨拶」「御手洗潔のダンス」の初期4冊しか読んでいなかったので、あまりの人物の違いに首をひねる部分がありました。(例えば、こんな情けなかったかぁ?石岡君とか、石岡君随分情けなくなってるなぁとか、石岡君って情けなさに拍車がかかってないかぁ?とか) しかし、その文章表現は流石、本格の鬼才です。
「異邦の騎士」と「数字錠(御手洗潔の挨拶)」と「最後のディナー」によって、私の中で島田荘司は泣かせミステリ作家No.1になりそうです。意図は全くないでしょうが、ドリーマーな全国数十万乙女の鼻の毛細血管を切らせるような台詞もチラッとあったり(大笑)

最高のプレゼントとは、与えられるものではなく与えるものだ
人に与えることにより、人はそれ以上のものを得る。真のプレゼントとはそういうものだ


ミステリといっても殺人や盗難といった謎はありません。この本はむしろ、「謎の提示とその解決」よりもその謎の中にある“人生”や“想い”を描いているように感じます。そして、それぞれの人生「最高のプレゼント」が与えてくれる暖かい想いが、雫のように心に浸透していきます。優しく、切なく、上質な小説に浸る幸せを噛み締めることが出来ました。えふさん、有難うございました!
島田荘司の手で磨かれた「珠玉」。まさにこの一言に尽きるでしょう。

この本の予備知識として、「異邦の騎士」と「龍臥亭事件」を読んでおく必要があると思われます。プラス御手洗シリーズを数冊。



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