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「オルフェウスの窓」を最後まで読み終わった時の私の感想。
……あの伏線はどうしたー!
回収されなかったところを見ると、私が伏線だと思っていたものは全然伏線ではなかったらしい。しかし、ミステリに至る病にかかっている私は気になって気になって仕方がなかったのだ。
だって絶対アレクセイは生きているって思ってたんだもん。
ケレンスキーの『アレクセイ・ミハイロフの死体がまだ見つかっていない』という台詞と、オステン・ザッケン男爵の『ボリシェビキが王党派を探している』という台詞はアレクが生きている伏線じゃなかったの!? 私はてっきりこんなエンディングが待っていると――ユリウスが川に落ちるコマまで――期待していたよ!
ヤーコプに追いかけられることによって記憶を取り戻したユリウス。あわや川に突き落とされそうになったところに、二人の間に割ってはいる人影があらわれる(この時ヤーコプとの格闘があったりして、ヤーコプは帝国金庫の鍵を胸に抱いたまま川に落ちるなんてのもいい)。
ユリウスを間一髪助け出した男性は、彼女を見て驚愕する。ユリウスも彼の姿に涙が溢れる。
当然その人影はアレクセイだ!
実はアレクセイは生きていて、ボリシェビキの任務で皇女アナスタシアを慕って訪れる貴族達を追ってドイツまで来ていたのだ。行方不明になった妻をずっと案じながら……。
かくして二人の愛の前に窓の伝説は打ち砕かれるのであった。
アレクセイの再登場は無いのー! なんで? どーしてぇ!?
読後の虚脱感といったら、○○の書いた××や△△△が書いた□□(作者名や本のタイトルはご自由に)のようだった。
しかし再読して見えてくるものがある。
「オルフェウスの窓」はユリウスやアレクセイだけの物語ではない。現実世界と同じように、登場人物の一人一人にドラマがある。誰もがそれぞれの人生において主人公なのだ。ユリウスが彼女の犯した罪を錘にして水底に沈むのは、彼女が主人公である物語のエンディングにすぎない。
そして私はヤーコプの人生を振り返る。
彼の物語に、あれ以上のかっこいい結末があるだろうか?
ヤーコプは数千万ルーブルの財宝を、最愛のアネロッテの為に投げ捨てたのだ。幼い頃、彼の人生を狂わせたロシアへの復讐も兼ねて……。
読めば読むほど味が出る。やはり「オル窓」は名作だ。
……ところで、本当にアレクは死んじゃったの?(諦めきれないらしい)
――続く