The Spontinius Combustion



 や、久しぶり。ちょっと近くまで来たから寄ってみたんだ。外は寒いよ。……入れてくれないのかい?あぁ、どうもありがとう。お邪魔しまーす。
 お、コーヒーか。すまないねぇ気ィ使わせちゃって。何つったってんだ?座れよ、って客の俺が言っちゃいけねぇな。あはは。あ、ビデオ観てたんだ。レンタル?『X‐ファイル』じゃないかぁ。俺もこれ好きなんだよ!テレビで毎週観てるんだけどさ、しょっちゅう潰されるんだよな、『はぐれ刑事純情派』に。ったく。このビデオ何巻?“炎”あぁ、アレ!ケッサクだったやつだな。もう観た?よし、なら喋ってもいいな。………おいおい、さっきから俺ばっかり喋ってるじゃねぇか。黙りこくるなよ。そう警戒するな。イキナリ来てビックリさせたのは悪かったけどさ。
 えーっと、何の話してたっけ?そうそう“炎”だ。何がケッサクかって、モルダーだよ。あいつFBI辞めるべきだと思うね。昔フラれた彼女があらわれて、「君を巻き込みたくない」とかなんとか言ってスカリーを遠ざけて、その女とよろしくやろうと思ったらまたフラれちまうんだぜ?大体火が怖い奴が人体発火事件の捜査に乗り出すなってえの。スカリーも相棒があんなんじゃ、発砲回数が多くなるのも当たり前だって。あーおかしい。え?何?バカ、考え過ぎだよ。自分とモルダー重ねて笑ってるわけじゃねぇよ。陽子の事ならもういいんだよ。取った取られたなんて、バーゲンセールじゃないんだから。ま、うまくやれよ。あ?別に?何、聞こえねぇよ。別に取ったわけじゃない?はっ!そのとおりだ!陽子は俺の彼女だったわけじゃないしな。やめやめっ!この話題はやめ!
 そうだっ、確かお前レイ・ブラッドベリの『華氏451度』持ってたよな。あれ貸してくれないか?まぁ、俺達は物の貸し借りをするようなフレンドリーな仲でもないけどさぁ、アレはどうしても読みたいんだよ。本屋になくて困ってんだ。え、いいのか!どもども。では、ありがたく。この本の書評っていうか、解説みたいなもの読んで、すっごく読みたくなったんだ。世の中の人が本を読まなくなってしまうんだろ?話の筋は大体わかってるんだ。あぁ、確かにSF読む姿勢じゃないな。でもさ、タイトルにガツンとやられたんだよ。『華氏451度』って、紙が自然発火する温度だそうだ。
 ………本の消える世界さ。
 さすがはブラッドベリだよな。すまん、煙草俺にも一本。ライターはいらないよ。……ふぅー。なんかやけに軽いなこれ。ジャン・レノがCMしてるやつだろ?ホント、煙が少ないや。おい、灰落ちてるぜ。金魚みたいに口パクつかせんなって。はは、驚いたか?最近出来るようになったんだ。陽子をお前に取られた頃かな?
 X-ファイルの“炎”でさ、念力かなにかで火を出す男、えっと、名前は忘れたけど。あれもさ、結局俺が今やってるのと原理は同じなんじゃないかな。指先にある目に見えない塵や埃が発火してるんだ。一種の念力なんだろうな。そう、最近出来るようになったんだよ。有機物ならなんでも、その物体だけ自然発火する温度まで上げることができる。

   ところで、人体の自然発火する温度を知っているか?



このタイトルを付けたいがために書いた!
俺の本領はブラック。俺の本性もブラック。
TVのX−ファイルとか、ジャン・レノの煙草とか
……時の流れを感じるなぁ。大学1年で書いたものだ。

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