衣装


 フラメンコといえば、びらびらのごてごての衣装を想像される方も多いだろう。あーそうさ。その通り、びらびらのごてごてさ。既製品を日本で買おうとするとめちゃくちゃ高いんだぜ?ちょっと素敵なワンピース型なんて8万円よ!?そんな1ヶ月の生活費80%なんて投資できるかよ!
 ということで、僕らは衣装を自分の手で作っている。しかし、毎年これが僕の精神をひどく蝕むものなのだ。

僕は裁縫が大っっ嫌いなのだ!!

嫌いも嫌い、大嫌い!幼い頃に針と糸を渡され「この布で袋を作ってみようか」といわれたが上手く縫えなかった。そこで「こことここがくっつけばいいんだよね!」と言ってホッチキスとセロハンテープで袋を作った記憶がある。その頃から裁縫と僕は犬猿の仲だ。毎年、夏の合宿前と3月フェスの前の衣装作りでノイローゼになりかける。
 今回の衣装は、ベルデは以前作った海色のスカートに黒いマントン。ということでこれは作らなくてもOK。グアヒーラは黄色と青の布で各自自由にデザインすることになった。
 ……今年の俺はちょっと違うよ!早め早めに余裕を持って作るのだ。デザインも前に作った衣装の型紙を使うのさ。くっくっく。今年こそ東京で泊めてもらっている友人宅で「まだ出来とらんが〜」と泣き言を言いながら縫い物をすることもない!うわははははは!

 

 今年の俺はちょっと違った!着々と衣装を作り、残りはボランテを半分つけるのみとなった某日。全体練習のため松本へ行き、「衣装ここまで出来ましたぁ!」と披露したその瞬間!!

「雪ちゃん、布が裏表逆だよ」

………………………へ?
「黄色の布は光沢の無い面が表で、青い布は光沢のある面を表に使うことになったの。聞いてない?」
聞いてねぇよ!!!なんでよ?なんでそうなんのよ!?普通光沢のある面が表だって思うだろ!……ということは、1ヶ月かけて作ったこの黄色のワンピース型の衣装、全部作りなおし!?あと10日で!?
 裏返すだけで作りなおせると思ったら大間違い。上着の部分は裏布を当ててあって、布を切る段階から作りなおし。しかもファルダは作りなおす前に、すでに縫いつけてあるボランテと上着を取り外し、改めて裏返して縫いなおすのだ。
 無理。絶対無理。今年の俺違いすぎ。

 かといって3月フェスを休むわけにもいかず、ビックリゲロを吐きかけながら作りなおす。朝6時から夜7時まで農業試験場でバイトをしていたが、そこに布を持っていってまで作る。
 しかし、僕が10日で作り上げられるはずも無く、東京へ行くバスの中でも縫う。友人宅でも縫う。リハーサル中でも縫う。
本番五分前まで縫う!

襟もとの青いフリルにつけるバイアステープが残り10cmで完成というところまで来て、出番になった。これだけのギリギリ感はおそらくあと5年は経験することはないだろう。「間に合わんかも!」と焦って手がガタガタ震えて縫えなかったくらいだ。

心をえぐった先輩の一言。

「あそこまでいったん完成しててなんでまだ出来てないの?2回くらい徹夜すれば出来るよ」

それは、僕は裁縫が大の苦手だからです。衣装作りで徹夜したあと、バイトのために塩尻まで行きながら、居眠り運転で友人道連れにして死にかけました。
大嫌いな裁縫のために命落とすなんて真っ平です。



用語解説

マントン→二等辺三角形の大きな布で、刺繍が施してあり、両等辺に長いフリンジ(プレスリーの袖の紐飾り)がついている。この布を体に巻きつけて衣装とすることもあるし、踊りの小道具としても使われる。

ボランテ→スカートの裾につけるフリルのこと。(特に裾とは限らないかも)

裏布→服の裏地のこと。またそれに使う布。

ファルダ→スカートのこと。裾まわりは10m以上。

バイアステープ→布製の縁取りテープ


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